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ADHDとうつ病の関連性を知る
いつもコラムをお読みくださりありがとうございます。今回は、「ADHD(注意欠如多動症)」と「うつ病」がどのように関わるのか、そしてその対処の視点を、患者さん向けにわかりやすくお伝えしたいと思います。
1. ADHDとは?
まず、ADHDとはどのような状態かを簡単に振り返っておきましょう。ADHDは、注意の持続が難しい、不注意・多動・衝動性などの特徴を持つ神経発達症(発達障害の一種)です。12歳以前から特徴が見られ、学校・家庭・職場など複数の場面で困難が出ることが、診断のひとつの目安になります。
成人期ADHD(大人になってから診断されるケース)もあり、国内調査では18~49歳を対象とした調査で、その症状や頻度をとらえる研究が進められています。
2. ADHDと精神疾患の“併存”という考え方
ADHDをもつ方では、別の精神疾患(併存症)が同時に見られることが少なくありません。特に「うつ病(抑うつ障害)」は、もっとも頻度が高く報告される併存症の一つです。
たとえば、ある国の調査では、ADHD群で「うつ病を診断された経験がある」割合が49%という報告もあります。 また、欧米の報告では、ADHDをもつ成人の30〜50%にうつ病の症状が、少なくとも一度は認められるとの報告もあります。
3. ADHDがうつ病リスクを高めるメカニズム ― なぜ重なるのか?
ただ「併存する」という統計的な事実だけではなく、なぜADHDを持つ方がうつを発症しやすいのか、その背景にはいくつかの要因が考えられています。
3-1. ストレス・自己肯定感低下の影響
ADHDの方は日常で「忘れ・遅刻・ミス」「スケジュール管理の困難」「人間関係の摩擦」などが起こりやすく、それが積み重なって心理的なストレスとなります。こうした連続した「できなさ」によって、自信を失いやすく、うつ傾向を引き起こしやすいという見方があります。
3-2. 遺伝的・生物学的要因
最新研究では、ADHDと抑うつ傾向との間に遺伝的関連性がある可能性も指摘されています。英国の研究では、ADHDの遺伝的リスクがうつ病のリスクとも関連する可能性があると報告されています。また、脳神経伝達物質(たとえばドパミンやセロトニンなど)の働きが、ADHD・気分障害の両方と関係している可能性も議論されています。
3-3. 相互作用・悪循環の可能性
ADHD症状が強く出ていると、その困難さがうつ症状を引き起こし、また逆に、うつ症状が注意力や意欲を低下させて、ADHD傾向をさらに悪化させる“相互作用”の悪循環が生じることもあります。特に、うつ病期には疲労感・無気力感が強くなるため、ADHD特性の補正がより難しくなることもあります。
4. 診断・見分けのポイント
うつ病とADHDの重なりを見極めるのは簡単ではありません。症状の一部が似ているからです。
- 思考がまとまりにくい/集中できない(うつでも起こる)
- 意欲の低下、やる気が出ない(うつ・ADHD双方で見られ得る)
- 記憶力・注意力の低下(うつ状態でも起こる)
こうした重複を避けるためには、”症状の時期・経過・強さ・波(変動)”などを詳しく振り返ることが大切です。たとえば、ADHDは子ども時代から持続する傾向があることが診断上ポイントになります。また、うつ病は「最近のきっかけ・ストレス」「抑うつ期の長さ・変化性」などが目安になります。
診断には専門医)との面談、心理検査、家族歴・発達歴の聴取が必要です。
5. 治療をどう考えるか
ADHDとうつ病が併存している場合、それぞれの状態を無視せず、”包括的な治療”が理想です。
5-1. うつ病治療の優先・バランス
重度の抑うつ症状があるときは、まずうつ病の治療を優先するほうが安全・確実という考え方があります。ADHD治療薬が、うつ症状を悪化させる可能性を懸念する立場からです。ただし、うつ病が比較的落ち着いている段階であれば、ADHD治療を同時に進めることも可能・有効という報告もあります。
5-2. ADHD治療の選択肢と注意点
ADHD治療には、代表的には薬物療法(中枢刺激薬・非刺激薬など)、認知行動療法(CBT)、心理社会的支援、生活改善(睡眠・運動・環境調整)などがあります。
うつ病を併存している場合、ADHD治療薬(特に中枢刺激薬)を使う際には、うつ症状への影響、副作用、気分変動リスクなどを慎重に検討する必要があります。 また、認知行動療法など心理的支援を併用することで、認知面・行動面のサポートを強化することが望まれます。
5-3. 日常でできるケア・対処法
以下のような工夫も、大きな助けになります:
- スモールステップで予定を立てる・チェックリスト活用
- 環境の整理整頓、時間管理補助(タイマー・アラーム・付箋など)
- 運動・睡眠・食事など基本的な生活リズムを整える
- ストレスの軽減、感情を吐き出せる場所を持つ(信頼できる人・カウンセリングなど)
6. 相談・受診のタイミングと心構え
「もしかして、自分はADHDかもしれない/うつ傾向かもしれない」と感じたら、ひとりで悩まず専門家(精神科、心療内科など)に相談することが大切です。
受診の際には、次のような情報を伝えると診断・支援につながりやすくなります:
- 子どもの頃から感じていた注意や行動の困りごと
- 症状がいつから・どのように出ているかの経過
- 日常生活で特に困る場面(仕事・人間関係・家事など)
- うつ傾向があるなら、抑うつ感・睡眠・食欲・気分変動など
診断や治療には時間がかかることもありますが、あせらず、専門家と一緒に自分に合ったケアを探していきましょう。
まとめ:ADHDとうつ病は“重なる”ことがある
・ADHDと、うつ病(抑うつ傾向)は、併存することが珍しくありません。
・その背景にはストレス・自己肯定感低下・遺伝・生物学的因子・相互作用などが関わっている可能性があります。
・診断は慎重なプロセスを要し、治療はうつとADHDの両面を見ていく必要があります。
・日常の工夫や心理社会的支援も大切な柱になります。
もしこの内容を読んで「自分にも心あたりがある」と思われたら、どうか専門医との相談を検討してみてください。一緒に、一歩ずつ前に進んでいきましょう。
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